しゃちほこ 5『しゃちほこ その5』「どう?言う気になった?」 「・・・・」 「どうしたの?」 答えない彼の横顔を揺は覗き込む。 「良すぎて立ち直れない・・・。」 「うっそぉ・・・。私って結構すごいのかな・・。」 揺は照れたように頭をかいている。 「全く・・・お前にかかったら俺も形無しだな。」 そういってため息をつくと彼は幸せそうに微笑んだ。 「で?」 「何?」 「もう・・・しらばっくれて。教えてよ。」 「お前もしつこいね。じゃヒントだけ。たぶんお前は好きだと思う。奴のこと。」 「そんなヒントヒントになってないじゃん。」 揺の口がとがっている。 「当日見にくればわかることなんだから。」 ビョンホンは笑いながら言った。 「あ~~~~~~~~っ!」 突然叫んだ揺にびっくりする彼。 「何?どうしたの?」 「今日、何日?あれから何日たった?」 うろたえる揺。 「どうしたんだよ。ほら、落ち着いて。何があったの?約束?」 「うん・・・・。まあ、そんなところ。すっかり忘れてた。断らなきゃ。」 白いシーツだけを巻いてベッドから飛び降りると揺は携帯電話を探した。 「揺・・・今、夜中の2時だよ。」 彼が呆れたようにつぶやく。 「あ・・・そっか・・朝一か・・」 困ったような顔をする彼女。 「で。何を断るの?」 「え?・・・・仕事。」 揺は何か考え事をしているのか半ば上の空で彼の質問に答えている。 「何の仕事?」 「映画の仕事。」 「翻訳の?」 「うん。翻訳プラスコーディネーター」 「揺はその仕事したくないの?」 「え?」 ふと正気に返った彼女。 「揺はその仕事気が進まないのか?」 「そんなことないけど・・・」 「じゃあ、何で断るの?体調も良さそうだし。復帰したいって言ってたじゃないか。」 「いいのよ。別に」 「何で。」 「だって・・・・いけないんだもん。」 「いつなんだよ」 「いいじゃない。いつだって。私が行かないって決めたんだから。」 「揺、そんなのダメだよ。ちゃんと相談して。」 彼はそういうとベッドの傍らに腰掛けている彼女の腕をつかんだ。 揺は大きなため息をついた。 「本当は相談するつもりでソウルに来たの。出発する日に小此木さんから電話があって仕事しないかって。」 「小此木さんって・・・・章介の結婚式で会った・・あの?」 「うん。あのK-1オタクの小此木さん」 彼は懐かしそうに微笑む。 「彼、元気?今度K-1一緒に見に行こうって言っておいてよ。」 「あ~はいはい。」 揺はいい加減に答えた。 「で?」彼はまた真顔になる。 「で。日仏合作映画の話をもらったわけ。日程は11月15日から半月。場所はパリ。」 「ワオ」驚く彼。 「本当にワオでしょ。でソウルに来てあなたが必死に頑張ってるのを身近で見てやっぱり傍にいたいって思ったの。 だから行かない。」 「ふ~~ん。悪いけど俺は揺の傍にはいられないよ。」 「え?」 「11月15日から半月はエンターティナーイ・ビョンホンの活動スケジュールびっしりだからね。 お前のために時間はさけない。 だから居ても無駄だから行ってこいよ。パリ。」 「ビョンホンssi・・」 「どうせお前が見たことがある俺ばっかりだろ? こうやってダンスなんて一緒に踊ってるわけだし。 ピアノなんてお前が先生なんだよ。 料理だって食わせたことあるしさ。 朗読劇は帰ってきたらお前のためだけに読んでやるから。 別にいいじゃん。見なくても。」 事も無げにそういう彼の本意がわかる揺は胸がいっぱいで返す言葉がない。 見る見る涙が溢れ出してくる。 「なに?見られないのがそんなに悔しいの?」 彼はそういうとゲラゲラと笑った。 「もう・・・・」 言葉を失った揺が彼に抱きつくと彼はそんな彼女をぎゅっと抱きしめて頭をそっとやさしく撫でた。 |